最高裁判所第二小法廷 平成9年(オ)317号 判決 1999年7月16日
上告人
金城健
右訴訟代理人弁護士
与世田兼稔
阿波連光
披上告人
大同火災海上保険株式会社
右代表者代表取締役
宇良宗真
右訴訟代理人弁護士
比嘉一清
主文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人与世田兼稔、同阿波連光の上告理由について
一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人は、金城レッカーの名称で、クレーン車のリース及びくい打ち等の基礎工事等の仕事をしている者であり、その保有する大型特殊自動車(移動式クレーン車、以下「本件クレーン車」という。)について、披上告人との間で、保険期間を昭和六三年一二月二一日までとする自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)に基づく責任保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。
2 昭和六三年九月一〇日午前一〇時一〇分ころ、沖縄県石垣市字大川<番地略>先真地橋橋りょう整備工事(以下「本件工事」という。)の現場において、石垣港運株式会社の従業員である野底均は、同人が運転するトラックに積載して運搬してきた鋼管くいの荷下ろし作業中に、鋼管くい一本に玉掛けを行い、上告人の従業員である波照間健弘が本件クレーン車を運転して右鋼管くいをつり上げたところ、これが落下し、野底の身体に当たり、野底は内臓破裂によって数時間後に死亡した(以下「本件事故」という。)。本件事故に至る経緯、その態様、発生原因は、次のとおりである。
(一) 沖縄県は、株式会社三協建設に対し、昭和六三年七月三〇日ころ本件工事を発注し、三協建設は、そのころ山本剛にその施行を請け負わせ、山本は、同年八月下旬ころ本件工事のうちくい打ち工事を上告人に請け負わせた。
(二) 三協建設は、株式会社琉金商事から、本件工事に使用する鋼管くい一〇本(一本が、長さ11.7メートル、直径約0.5メートル、厚さ約九ミリメートル、重さ約二トン)を、本件工事現場で車上に積載したままの状態で買主に引き渡すという現場車上渡しの約定で購入した。
(三) 琉金商事は、石垣港運に対し、鋼管くいの本件工事現場までの運搬を請け負わせた。その際、石垣港運の代表者は琉金商事の従業員に対し鋼管くいの荷下ろし作業も請け負いたい旨頼んだが、現場車上渡しの約定であり、荷下ろしは本件工事の下請け業者が行うといって断られた。結局、荷下ろしは、山本又は上告人が行うこととなった。
(四) 野底は、昭和六三年九月一〇日、鋼管くい一〇本を積載したトラック(以下「本件トラック」という。)を運転し、本件工事現場へ行った。なお、野底は、大型自動車第二種免許を持ち、社団法人沖縄県労働基準協会が主宰する移動式クレーン特別教育講習及び玉掛技能講習をいずれも修了している。
(五) 玉掛技能講習を修了していた波照間は、上告人から本件工事現場において鋼管くいの荷下ろし作業を行うよう指示され、右同日、本件クレーン車を運転して本件工事現場に行き、まず、山本の従業員であり、本件工事の現場監督である大浜三千人から、鋼管くいを荷下ろしする場所の指示を受け、本件クレーン車を停め、クレーン(以下「本件クレーン」という。)を設置した。大浜は、鋼管くいの荷下ろし場所を指示したのみで、他の指示等を一切することなく、本件工事現場の他の作業場所に立ち去ったので、荷下ろし作業をする者は、波照間のほか、山本の従業員である根間清徳しかおらず、波照間は、本件荷下ろし作業を自ら指揮して行うこととした。
(六) 野底は、波照間が本件クレーンを設置した後、波照間の了解を得て、本件トラックを本件クレーン車のそばに停車させた。
(七) 波照間は、運転台を南側に向けたまま本件クレーンのジブを伸ばし、補巻フックを地上近くまで巻き下ろす操作をした後、運転台から降りて本件クレーン車に積んであった三組のワイヤーロープの中で最も長い二本一組のワイヤーロープ(長さ約6.5メートル)を二本とも補巻フックに掛けた。そこに、野底が、荷下ろし作業者が足りないことから玉掛け作業の手伝いをしようとやって来て、波照間に対し、最初に下ろす鋼管くいを一番上に積んである西側寄りのものにするのがよいのではないかと提案し、波照間もその方が作業がしやすいと判断して、その鋼管くいから下ろすことに決めた。そこで、波照間は、野底と根間に対し、二本のワイヤーロープの両端に鋼管くいを玉掛けするように指示して本件クレーン車に積んであったフックとシャックルを渡し、野底と根間は、ワイヤーロープの両端にフックとシャックルとを取り付けた。
波照間は、本件クレーン車の運転席に戻り、南側に向いていた運転台を左旋回させながら、ワイヤーロープの下端部分が最初に荷下ろしする鋼管くいの中央部分に来るようにジブを移動させ、ワイヤーロープを調整したところ、本件トラックの荷台の運転席側前部に登っていた野底と荷台の後部に登っていた根間は、それぞれ鋼管くいの両端にワイヤーロープの下端の各フックを引っ掛けて玉掛けをした。波照間は、野底が鋼管くいをつり上げてもよいという合図をしたと思い、ワイヤーロープが緊張するように巻き上げ操作をしながら、鋼管くいのバランスをとるようにジブの方向及び角度の調整操作も行い、鋼管くいの両端に引っ掛けてあるフックが脱落しないことを確認した上で、まず、鋼管くいを一五ないし二〇センチメートルほどつり上げたところで巻き上げをいったん停止して異常がないことを確認した後、更に鋼管くいを本件トラックの運転席後部のガード板を越える高さまで巻き上げたとき、それまで本件トラックの荷台上の東側の他の鋼管くいの上に登って様子を見ていた野底がつり上げられた鋼管くいの下をくぐって運転席の後部西側から地面に飛び降りようとした。波照間がつり上げていた鋼管くいを右旋回させようとしたとき、鋼管くいをつっていた本件トラック後部側のワイヤーロープが本件クレーンの補巻フックから外れて鋼管くい後部が地上に落下し、その衝撃によって鋼管くい前部に引っ掛けてあったフックも鋼管くいから外れ、鋼管くいが地上に落下した。野底は、鋼管くいが地上に落下する際、身体に鋼管くいが当たり、内蔵破裂によって数時間後に死亡した。
(八) 本件事故の発生については、波照間が、鋼管くいに適したより長いワイヤーロープを使用せず、又は補巻フック部分にシャックルを取り付けなかった過失があり、野底がつり上げられた鋼管くいの下に立ち入った過失があった。
3 野底の相続人らは、平成三年八月二八日、沖縄県、三協建設、山本、大浜、上告人及び波照間に対し本件事故についての損害賠償請求訴訟を提起し、上告人から訴訟告知を受けた披上告人は補助参加をして争ったが、平成四年九月三〇日に、上告人が野底の相続人らに損害賠償金として一五〇〇万円の支払義務があることを認め、右金員等を支払う旨の裁判上の和解(以下「本件和解」という。)が成立しており、上告人は一一五〇万円を支払い済みである。
二1 本件訴訟は、上告人が、本件和解に基づき野底の相続人らに支払い、又は支払うべき損害賠償金につき、自賠法一五条に基づき、披上告人に対し、既払分一一五〇万円と同額の支払及びこれに対する遅延損害金の支払並びに期限未到来の三五〇万円の支払を条件とする同額の支払を求めるものである。
2 原審は、概要以下のとおり判断し、上告人の請求を棄却した。
(一) 鋼管くいの荷下ろしは野底の業務ではなく、また、野底は、右荷下ろし作業をする上告人の従業員である波照間の指揮命令を受ける地位にあったものでもないが、本件のようなクレーンを利用した重量物の荷下ろしは、玉掛けを含め作業員の協働作業であり、わけてもそのうち玉掛け作業においては荷下ろしに伴う危険発生を未然に回避することが不可欠であり、それゆえ、事業者は、有資格者により玉掛け作業をすべきことを法律上義務付けられているところ、玉掛けの資格、技能を有する野底は、自ら進んで波照間に対し最初に下ろすのに適した鋼管くいについて提案し、その後は、波照間の指示を受け、野底自身の判断と技能に基づいて玉掛け作業を行い、本件クレーン車の装置を使った荷下ろし作業の一部を分担したのであるから、野底は、披保険車両である本件クレーン車の運転補助者というべきであり、自賠法三条本文にいう「他人」には該当しない。
(二) 玉掛け作業の特殊性、危険性にかんがみると、資格のある野底が玉掛け作業に従事する場合には、それが本来同人の行うべき業務でなく、好意で一時的に携わったとしても、本件クレーン車の運転の補助に従事する者であることを否定することはできず、野底の過失の有無やその程度によって右判断が影響を受けるとは解されない。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
本件トラックにより本件工事現場へ運搬された鋼管くいは現場車上渡しとする約定であり、本件トラックの運転者野底は、波照間が行う荷下ろし作業について、指示や監視をすべき立場になかったことはもちろん、右作業を手伝う義務を負う立場にもなかった。また、鋼管くいが落下した原因は、前記のとおり、鋼管くいを安全につり上げるのには不適切な短いワイヤーロープを使用した上、本件クレーンの補巻フックにシャックルを付けずにワイヤーロープを装着したことにあるところ、これらはすべて波照間が自らの判断により行ったものであって、野底は、波照間が右のとおりワイヤーロープを装着した後に、好意から玉掛け作業を手伝い、フックとシャックルをワイヤーロープの両端に取り付け、鋼管くいの一端にワイヤーロープの下端のフックを引っ掛けて玉掛けをするという作業をしたにすぎず、野底の右作業が鋼管くい落下の原因となっているものではない。そうすると、野底は、本件クレーン車の運転補助者には該当せず、自賠法三条本文にいう「他人」に含まれると解するのが相当である。
したがって、原審の前記判断には、自賠法三条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、野底の死亡による損害額、野底について過失相殺の有無、程度、本件和解により支払われた金額が右賠償額の範囲内か否か等を審理判断させるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官福田博 裁判官河合伸一 裁判官北川弘治 裁判官亀山継夫)
上告代理人与世田兼稔、同阿波連光の上告理由
第一 法令違反について
一 原判決には、自賠法第二条四項、第三条本文の解釈適用を誤った法令違反があり、右法令違反は、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄されるべきである。
二 原判決の最大の問題点
原判決の最大の問題点は、第一審裁判所と全く同一の事実認定にも拘わらず、訴外亡野底において、偶々、玉掛免許を保持していたという人的属性を過度に強調し、被害者である亡野底の他人性を否定し、自賠法の理念である被害者救済を拒否するという不当、過酷かつ違法な法解釈をしている点にある。
三 自賠法の理念
自賠法は、改めて論ずるまでもなく、我が国のモータリゼーションの急激な発達によって、不可避的に生じてきた交通事故の増大という社会現象に適切に対応する必要があるとして制定された法律である。この立法趣旨、目的は、一面において被害者に対する迅速かつ適切な賠償の実現にあるが、他面、資力の乏しい加害者に強制的に保険に加入させることにより、不幸にして加害者=賠償義務者となったことによる賠償義務履行を可能とするという、まさに被害者、加害者両者にとって、保険制度の最大の利点である多数人の少額な負担(保険料支払)による損害の填補=被害者救済の実現にある。
従って、保険約款解釈についての格言である「疑わしきは、保険者に不利に解釈せよ」との解釈原理に従うべきであって、いたずらに被害者及び保険契約者の不利益な解釈を指向することは、自賠法の理念に違背した法令解釈と解すべきである。
四 名古屋高裁判決について
1 原判決が、原審において、一切の証拠調べもなさず結審し、上告人に逆転敗訴というまさに不意打ちと評する外ない判示をした最大の論拠は、名古屋高裁判決(昭和六一年四月一六日判決・昭和六〇年(ネ)第四八一号)の存在に尽きていると思料される。そこで、同判決と本事案の相違点を具体的に明らかにしておくこととする。
2 名古屋高裁事案について
① 原告(被控訴人)は、大成建設株式会社から、クレーンガーターの荷降ろし作業の業務を受注し、運転手付きでクレーン車を派遣した業者であること。
② 本件事故の被害者である柴野は、大成建設の下請会社のそのまた下請けである訴外有限会社黒木建設の従業員であったこと。
③ 柴野は、黒木建設の従業員として、その業務として本件クレーンガーターの荷降ろし作業の補助業務に従事していたこと。
④ 柴野は、玉掛技能講習を受けていた資格者であり、有資格者として、本件玉掛け作業に従事し、クレーン運転者である竹田に対し、巻き上げの合図を送っていた者であること。
⑤本件事故は、四個のクレーンガーターのうち、二個の荷降ろし作業終了後、三個目の作業途上で発生したこと。
⑥ 第一審である津地方裁判所も、柴野につき本件クレーン車の運転補助者であったと認定していたこと。
⑦ 第一審は、最高裁昭和五〇年一一月四日判決(民集二九巻一〇号一五〇一頁)の判示理論を根拠として「運行供用者との関係において、その他人性を肯定するのが相当である」と判示したものと思料されること。
3 名古屋高裁事案に対し、本件事案は、次のとおりである。
① 上告人は、訴外三協建設の下請けである訴外山本建設から杭打ち工事の業務のみを、さらに下請けした弱小なクレーン業者であること。
② 訴外三協建設は、本件工事に使用する鋼管杭を琉全商事から「現場車上渡し」の約定で購入したこと。
③ 訴外琉全商事は、訴外石垣港運に対し、本件鋼管杭を本件現場まで運搬するよう請け負わせたこと。
なお、石垣港運は、会社の利益を企図して、鋼管杭の荷降ろし作業も請け負いたい旨頼んだが、荷降ろしは訴外三協建設の下請け業者が行うことになっているということで断られていること。
④ 被害者である亡野底均は、石垣港運の運転手として、本件鋼管杭一〇本を積載して本件現場に赴いたこと。
なお、当然のことではあるが、亡野底は、会社より、「受注業務の内容は運搬業務のみであり、荷降ろし作業は、訴外三協建設の下請業者が担当する旨の指示命令を受けていた。
⑤ 上告人の従業員である訴外波照間も、本件クレーン車を運転して本件現場に行ったところ、本件現場監督である訴外大浜三千人より荷降ろし場所の指示を受け、第一審判決添付図面一記載の位置にクレーン車を設置したこと。
⑥ 訴外大浜は、本件鋼管杭の荷降ろし場所を指示したのみで、他の指示等は一切しなかったので、やむなく上告人の従業員波照間は、本件荷降ろし作業を自ら指揮して行うことになったこと。
⑦ 亡野底は、本件事故現場に荷降ろし作業者がいなかったことから、好意で、訴外波照間の指示に従い同作業の手伝いをしたこと。
⑧ 本件事故は、亡野底が積載してきた一〇本の鋼管杭のうち一本目の作業開始直後に発生したこと。
⑨ 亡野底は、訴外波照間に対し、作業の安全を勘案してクレーンの巻き上げの時期、方法等について、合図をしたと認めることはできず、また、訴外波照間は、亡野底が仮に何らかの合図に類するような動作を行っていたとしても、亡野底の動作によって、巻き上げ作業を行ったのではなく、自ら亡野底及び訴外根間の作業を確認し、自らの判断で、巻き上げ作業を行ったと認められること。
4 名古屋高裁事案と本件事案の対比検討
名古屋高裁事案は、その第一審裁判所も判示するとおり、被害者たる柴野は、雇用主は異にするものの、クレーンガーターの荷降ろし作業という具体的な業務については、まさに会社の業務命令に従い、直接、原告運転手らと協働作業をなすことが予定され、事実、その協働作業中に当該事故の被害者となっているものである。従って、第一審裁判所においても、運転補助者であるとの認定を受け、いわゆる運行供用者との関係において、相対的に「他人性」まで否定されるべき事案ではないと判示されていたものである。
しかし、本件にあっては、亡野底は、本件現場まで、鋼管杭一〇本を運搬した業務のみを担当した石垣港運の運転手に過ぎず、会社の業務命令としても、本件事故現場までの「運搬」にとどまっていたものである。
訴外三協建設及びその下請け業者である山本土木も、さらには、上告人運転手である訴外波照間もまた亡野底が右業務しか担当していないことは、十二分に知悉しており、それ故に訴外波照間は、自らの判断でクレーン車の操作をしなければならないものとして、その作業に着手したのである。
さらに加えて、名古屋高裁事案にあっては、四本のクレーンガーターの荷降ろし作業のうち三本目に着手していたのに対し、本件にあっては、一〇本の鋼管杭のうち、一本目の荷降ろし作業開始直後に事故が発生しているという点でも、その作業の協働性につき、重大な疑問を抱くに十分な相違点を有している。
従って、名古屋高裁事案において、「他人性」が否定されたことを最大の根拠として、本件にあっても「他人性」が否定されるべきであると判断していたとすれば、事実認定が根本から相違する全く別個の事案判例を鵜呑みにした予断に満ちた判決と評されるべきである。
五 運転補助者について
1 自賠法第二条四項は、「この法律で『運転者』とは、他人のために自動車の運転または運転の補助に従事する者をいう」と規定する。法第二条四項が「運転者」の定義中に「運転の補助者」をも包含している趣旨は、まさに運転手と法的に同一の評価を下しうる補助業務者に限定して解釈すべきである。したがって、運転補助者と認定されるためには、「業務として運転者の運転行為に参与し、これを助けている者」、即ち、「職務上運転補助者にあるということと、現実に運転の補助をしているという二つの要件をもとに」限定的に解釈すべきである(注釈自動車損害賠償保険法。木宮=羽成一三頁)。
右基準に照らして本件を検討してみると、①亡野底は、その請負業務の特質上、訴外波照間の運転補助者の地位にはなかったこと(この点において、名古屋高裁事案とは根本的かつ本質的な相違点がある)。②亡野底が担当したのは、偶々、現場に荷降ろし作業員がいなかったことから、その好意でいわゆる訴外波照間の作業を手伝ったに過ぎず、法的観点よりして、運転補助業務者と認定することは極めて困難であること。さらに加えて、一〇本目の鋼管杭荷降ろし作業の第一回目の作業開始直後に本件事故が発生していることより、現実に運転の補助業務であったのか、予定されていた他の作業員が現場にくるまでの過渡的な手伝いであったのかが判然としないこともまた、現実の補助業務性を否定する事情と認定しなければならないものである。
2 以上のとおり、亡野底が、訴外波照間の運転補助者と認定するためには、「職務上運転補助者の地位にあったこと、現実に運転の補助業務をしている」という二要件を充足しなければならないところ、本件にあっては、右二要件のいずれも充足していないというべきであり、仮に然らずとしても、「職務上、運転補助者の地位」には全くなく、単なる好意で、当該荷降ろし作業を手伝ったに過ぎない人物であるから、「運転補助者」ではなく、「他人」と解する外ない。
3 ところで、原判決は、第一審と同一事実認定をしながら、第一審と結論は全く異にしている。その最大の根拠は、「亡野底が、玉掛けの資格、技能を有していた」ことに尽きるものと思料される。換言すれば、原判決の論理に従えば、亡野底が運転免許の資格しかない人物で、本件作業を手伝ったに過ぎないような事案であれば、運転補助者ではなく「他人」として保護されるが、偶々(運悪くと表現すべきか)、玉掛け講習を受けた有資格者であったため、その資格を有しているという亡野底の特殊な人的属性のみを根拠として、突如として、運転補助者に該当するというものであって、その判示には、理論的一貫性がないというべきである。亡野底が玉掛け資格を有していようがいまいが、亡野底が関与した具体的作業状況を基礎として、前記二要件を充足しているか否かをもって、運転補助者であるか否かの判断をすべきであって、全く同じ事実関係にありながら、玉掛けの有資格者であったから運転補助者となり、資格もない人物であった場合は、「他人」であるなどという判示は、理論としての合理性、正当性は全く有しておらず、偏頗かつ不当違法な解釈と評すべきである。
第二 <省略>
第三 結論
自賠法の立法趣旨・目的は、被害者の迅速かつ適切な救済にある。そうであれば、「他人性」を否定する認定は、厳格にされるべきであって、本件の如き、偶発的な好意による補助業務をもって、偶々(原判決との関連では、まさに運悪く)、玉掛けの資格を有していたという一事のみから、突如として、運転補助者と認定されることは、自賠法の理念に違背した法解釈と解すべきである。仮に然らずとしても、前記最高裁判例の判例理論を深化させ、運行供用者との関係において、「他人」として保護すべきが正当であると思料する。
よって、最高裁のご高明なる判断を賜り、破棄自判されるよう上申する。
以上